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社長コラム
Vol.15
カップスリーブの開発(後編)
   いよいよソフトスリーブに取り組む
ソフトスリーブの開発ポイントを以下のようにまとめました。
①カップサイズを問わずに兼用できること ⑤小ロット印刷が可能なこと
②ホットの断熱性とコールドの結露吸収を実用面で
   両立すること
⑥初期費用、特に製版代がリーズナブルなこと
③使用に際しての作業性が良好であること ⑦お客様に愛着を持って使用され、市場には
   スリーブとして認知されること
④印刷の対応条件を拡げること
   ・ベタが可能なこと
   ・カラー印刷に対応できること(フルカラー印刷も
   視野に入れて)
 
では最初から開発工程を辿ってみます。
   ①カップサイズを問わずに兼用できること
最初はハードスリーブの形状を踏襲しようと考えました。その形の図面と試作サンプルです。
図面と試作サンプル
この形状は左右の長さにおいて原紙に余裕が無く、双頭の形状が無理なために決めたものです。差し込み形状の先を落したのは、ハードに比べて原紙の強度が足りず、差し込むとき先が折れてしまうために変更しました。片側の差し込みを3カ所の受け口で受けることにより、カップサイズに合わせました。但し8オンスが内側、12と16オンスが外側なのですが、真ん中のサイズはとりあえず入れてみよう程度の試作です。しかしこの形状はどう見てもスマートとは言えません。もう一度形状を詰めることになりました。そして完成したのが次の形状です。
ソフトスリーブの決定図面
   差し込みの形状を鍵型に変更しました。それに伴い受け型も引っかけやすく差し込み易い形状へ と改善しました。これで形状は決りました。受け口が2本なのは、当初は主力販売品のSOLO の8オンスと12・16オンス厚紙カップへの対応に絞ったのです。これで第1の項目をクリアしました。
   ②ホットの断熱性とコールドの結露吸収を実用面で両立すること
この検証は最初の形状の試作サンプルで繰り返しました。断熱性は厚紙カップ単体とダブルウォールカップ、さらにとスリーブを巻いたカップとの比較を繰り返しました。熱湯を注ぐどのカップでも熱くて持てません。湯温が80℃位から比較を始めました。
カップ比較図面
   左のソフトスリーブを巻いたカップでダブルウォールやポリ発泡と同等の断熱性があるかを調べましたが、断熱性はほぼ同等の結果になりました。ただし真ん中にダミーとしてカート紙を巻いたカップがありますが、これは全く効果がないことがわかりました。一瞬にして表面のカート紙まで熱さが伝わります。それでは厚紙カップ単体と何ら変わりません。
   一方結露の吸収では目覚しい成果が得られました。さすがにコースターに近いパルプ原紙です。写真ではわかり難いかも知れませんが、ソフトスリーブを巻いた4点はいずれもカップの下に敷いたナプキンが濡れていません。スリーブは結露を吸収して濡れているのですが、カップの底までは伝わってはいないのです。スリーブを巻かないカップに敷いたナプキンはグッショリ濡れています。この結果からはカフェのテーブルがあまり水濡れしないことが考えられます。先客が帰った後のカフェテーブルに、水のリングがいくつも残っていることも無くなるでしょう。これはとても嬉しい発見でした。但しここで使用したカップは12オンス PET クリアカップですが、16オンスや18オンスのもっと大型のカップだったら、また盛夏の屋外など空気が纏わり付くような熱さの中などでは、やや異なる結果になるかも知れません。とは言えカップの結露を吸収するというソフトスリーブの狙いは果たせたように思っています。

   実はこのテスト時点ではまだ、ソフトスリーブの型押し(エンボス)が入っていません。本製品では、打ち抜き工程で同時に型押しする技術と金型が開発され、縦に深いエンボスが入りました。この技術は委託工場の皆さんの頑張りによって完成したのですが、この効果で熱性が一段と高まり、カップとのフィッティングが向上しました。スリーブを組んでキュッと嵌めれば、簡単にはずり落ちないという結果が得られたのです。ここがソフトスリーブの心臓部ともいえます。ソフトスリーブを填めたカップを手に持つと、エンボスの狭い方がカップに接地し、広い方がカップら浮いた状態で手に当たります。熱さが伝わりにくいようにと考えた形です。
   ③使用に際して作業性が良好なこと
ソフトスリーブは当初2サイズのカップに兼用、次いで3サイズの兼用と変わったのですが、どのサイズでも一つの側で差し込む方式にしました。従ってソフトスリーブの持ち方は変わりません。右手で鍵を持って左手側の受け口に差します。左利きの方には恐縮ですが、左利きの方は器用と信じての形状です。差し込みの方法も上部に横カットを入れ、そのまま縦カットに流すことで、隙間が一緒に広がり、とても指し易くなりました。もちろん受け側だけでなく、差し込む側の形状にも充分に拘りました。持てば次の動きを判っていただけることが狙いです。
ソフトスリーブ第一号
   2003年の記念すべき第一号のご注文を、金沢のキャラバンサライ様からいただきました。これは初期の製品のため、受けのカットは 2 本です。縦のエンボスが様々に効果的です。
   また作業性のさらなる改善として、アクリルホルダーを開発し、 商品化しました。ソフトスリーブもハードスリーブも 1 枚で S サイ ズ用と M&L サイズ用に兼用出来ます。そのためにこのホルダーには スリーブ用として前面に 2 カ所のスペースを設け、後ろにはナプキンやストローなどが入れられるようにしました。事前に組んだスリーブをセットしてコンディメントバーに置くことで、お客様にスリーブを填めていただけます。ドリンク提供の際に、スリーブを組んでカップを挿し、お客様にお渡しするというオペレーションの軽減が計れます。
   ④特抄原紙の開発で印刷の対応条件を広げる
               ベタ印刷が可能なこと
               カラー印刷に対応できること(フルカラー印刷も視野に入れて)
   ソフトスリーブの原紙はコースター原紙に近いパルプ紙です。最初に抄造した原紙はメインとなるベージュ原紙でした。この原紙は特抄きで準備したのですが、我々の要望があまりにも多く、かつ複雑なために、製紙工場側はいちいち要望を聞き返す状態でした。ここを納めてくれたのが前出の委託工場の方々でした。印刷適性を上げるために表面を堅く抄いて欲しい。断熱性を高めるために繊維の絡みを緩く抄いて欲しい。同じくやや厚めに仕上げて欲しい。このように相矛盾するような要望を何とか通してくれたのです。その後抄造された特抄きのソフトスリーブ原紙は、充分に満足のいくものでした。但し、一般的な印刷には充分対応できるのですが、ベタ印刷ではインクの吸収量が多く、このままでは色ムラが避けられません。そこで別の白原紙を準備することにしました。これによりベタ印刷が可能となり、また 4 色カラーの印刷もクリアできたのです。発色の点ではまだ満足ではありませんが、SANFRANCISCO OPERA のスリーブに一歩近づけたかなと感じています。
   以下にベタ印刷のカラースリーブと 4 色印刷のカラースリーブを紹介します。オフセット印刷ですので印刷はきれいにあがります。
   ⑤小ロット印刷が可能なこと
これはコースターの印刷設備をそのまま使うことで解決しました。僅か5丁取りのため、小ロットにも対応できたのです。そのロット数は5千枚で段ボール箱1ケースになります。ちなみに1日 スリーブを10枚ご使用されるカフェの場合、年間(営業日数 300 日として)で約3千枚になります。1 ロットが2年未満で使い切れるという計算が成り立ちます。そこで、従来は版の保持期間1年でしたが、工場の協力を得て、2013 年からは版の保持期間を2年へと延長することができました。 この改訂により再版の可能性が高まるために、ソフトスリーブのさらなる普及に繋がるのではないかと考えております。これで 1 日 10 枚ご使用の場合でも、再版製造時に版をもう一度造り直すことが無くなりました。お客様には安心してお使いいただけるものと思います。但しデザイン変更がある場合は改めて版代が必要になります。

ところで紙コップのオリジナル印刷のロットは、一般的に10万個以上になります。印刷の希望があってもこのロットでは簡単にオリジナルカップは造れません。それではと代替え案を探してスリーブに行き辿り着きましたという声を良く聞きます。ソフトスリーブは一定の断熱性があり、結露対策でコールドカップにも使用できます。そうしたことが市場に受け入れられたのか、最近は頓にご注文が多くなっています。ありがとうございます。
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   ⑥初期費用、特に製版代がリーズナブルなこと
前述したハードスリーブは製版代が高く、それがネックでした。1 版で5~6万円、2 版ですと10~12万円になります。これはたとえ小ロットといえども高いハードルでした。しかしオフセット印刷のソフトスリーブではその製版代が版1万円で済みます。5千枚の 1 色印刷でしたら、総額でも5万円以下で作ることができるのです。これも受け入れられた理由の一つと考えています。
   ⑦お客様に愛着を持って使用され、市場にスリーブとして認知されること
これは達成できたように思います。発売以来約 10 年になりますが、年々新版の数が増えています。一度お使いいただいたお客様からの再版や新版オーダーも増えています。リピートオーダーですね。しかも夏場でもその数が落ち込みません。一方のハードスリーブは夏の出数がどうしても落ちるのですが、どうしてかソフトスリーブはむしろ夏の出数が上がる傾向が最近は顕著です。カップの結露という問題を正面に捉えて原紙開発を進めた成果としてとても嬉しく思います。
   カフェグッズでは隔年でヨーロッパ視察ツアーに参加しています。その最初のツアーは 2009 年 10 月でしたが、コペンハーゲンでホットにもコールドにもスリーブを巻いているコーヒーショップを発見しました。BARESSO COFFEE です。
   デンマークのスタバとも称されるこのコーヒーショップには、確かにオリジナルのスリーブがあり、コールドドリンクにも巻いていたのです。とても嬉しい発見でしたが、目的が結 露対策なのか、北欧の厳しい冬を考慮した耐寒対策なのかは解りません。写真を見る限りではアイスラテにもホットコーヒーにも確かに巻いていま す。冷蔵ケースにスタンバイされたフレッシュジュースのカップにも巻いてあります。どちらが先かとの観点ではなく、同じ発想を形にしていることに勇気が湧きます。2011 年 10 月に再訪したコペンハーゲンでも、BARESSO COFFEE のスリーブは健在でした。ここでは豊かなコーヒー文化の証なのかも知れません。
   以下にとても効果的にソフトスリーブをご活用いただいています例をご紹介いたします。

   普段使いのデザインはありますが、下記の様にリニューアルやアニバーサリーにと、大変効率的にお使いいただいております。それにしても印象的なキャラクターと機能的なデザイン、加えてスパイスの効いた遊び心には、常に感心しています。こうした使い方をしていただくことは、ソフトスリーブという商品の晴れ姿でもあります。開発者として本当にありがたいことです。
   人や街を彩るカフェやコーヒー店の豊かさを、いつまでも支えるソフトスリーブでありたいと、カフェグッズは願っています。
2012/12/28
カフェグッズ代表
小林 文夫
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